消費増税転嫁法 「還元セール」の混乱を防げ

 消費者や企業に混乱を招かぬよう、政府は消費税率を引き上げる準備に万全を期すべきだ。

 2014年4月の消費増税に合わせ、増税分を商品価格に円滑に転嫁するための特別措置法が、与野党の修正を経て、参院で成立した。

 特措法は、大企業が強い立場を利用し、取引業者などに増税分を上乗せさせず、買いたたくなどの行為を禁じた。

 1997年に消費税率を引き上げた際には、スーパーなど大手業者の取引先だった多くの中小企業が、商品に価格転嫁できず、負担をかぶる結果になった。

 この反省を踏まえ、立場の弱い業者の泣き寝入りを防ごうとする狙いは妥当である。

 納入業者がそろって消費増税分を価格に上乗せする「転嫁カルテル」を、特措法が例外的に認めた点も評価できよう。

 焦点となったのは、消費増税の際、小売業者などの宣伝の表示をどこまで認めるかだった。

 政府は当初、「全品3%値下げ」など、消費税還元を連想させる表示を禁止する案を示したが、「消費税」という言葉が含まれなければ、容認する内容に修正した。

 「3%値下げ」や「春の生活応援セール」という表示は認められる。ただし、「消費税還元」など増税分を価格に上乗せしていないかのような宣伝は禁じた。

 小売業者などからの反発を踏まえ、見直したのはもっともだ。

 企業の経営努力で、増税分を転嫁しても、税込み価格を据え置ける場合もあるだろう。

 企業の自由な価格競争や販売促進活動を政府が必要以上に制約してはならない。何よりも大切なのは、企業の健全な競争意欲を萎縮させないことだ。

 商取引で起きる不正を見つけるのは難しい。公正取引委員会中小企業庁などは、監視に全力を挙げてもらいたい。

 税込み価格を表示する「総額表示」の義務も緩和する。税を含まないことを明示すれば「税抜き」の価格表示も容認される。

 とは言え、税込みと税抜きの店が混在すれば、消費者の間に戸惑いが広がりかねないだろう。

 政府は今後、特措法の内容や価格表示方法などについて、指針を作成する。具体的で分かりやすい内容とし、国民や企業に周知徹底を図る必要がある。

 消費税率引き上げは、あくまで景気動向などの慎重な見極めが前提となるが、環境整備を怠ってはならない。