パキスタン情勢 対米修復が地域の安定を導く

 米国の対テロ戦争最前線のパキスタンで、政情不安が続くようでは、地域の安定は覚束かない。

 5月の総選挙で勝利した最大野党の党首のナワズ・シャリフ元首相が、無所属議員を取り込んで議会過半数を制し、首相に選出された。

 クーデターが繰り返されてきたパキスタンで、軍政が復活せず平和的な政権交代が実現した。民主化がさらに定着したことを示すものである。

 シャリフ氏の勝因は、米国と連携して対テロ作戦を進めたザルダリ政権を「対米追従」と批判し、反米票を吸収したことにある。

 米国は一昨年、パキスタン国内に潜んでいた米同時テロの首謀者ウサマ・ビンラーディンを、ザルダリ政権への通告なしに殺害した。加えて米軍はアフガニスタンとの国境地帯で反政府武装勢力への無人空爆を続けている。

 シャリフ氏は首相就任演説で、無人空爆について「すぐにやめるべきだ」と強調したが、米国を名指しすることは避けた。国内に根強い反米感情に配慮しつつ、最大の援助国、米国との関係修復を図ろうとしているのだろう。

 米軍のアフガンからの撤退期限が来年末に迫っている。それまでに、武装勢力のテロによって悪化した治安を立て直し、地域の安定に貢献できるようになるのか。

 シャリフ氏の指導力が問われよう。それにはまず、武装勢力の掃討作戦に当たっている軍と、信頼関係を築くことが不可欠だ。

 シャリフ氏は選挙戦で武装勢力との対話を訴えたが、武装勢力は米軍の無人機攻撃で最高幹部が殺されたとして対話を拒否した。対話路線の前途は険しい。

 3度の戦争を経た隣国インドとの関係もぎくしゃくしている。核兵器保有する印パ両国の緊張緩和が望まれる。

 シャリフ氏は、中国の支援で、戦略的要衝のグワダル港と中国を結ぶ道路や鉄道の建設を完成させる方針も表明している。

 これ以上、中国への傾斜を強めることなく、米国やインドと関係を改善し、バランスある外交を展開することが重要だ。

 経済へのテコ入れも、急務である。年率4%を下回る低成長で外貨準備が減少し、電力不足も深刻だ。中断した国際通貨基金IMF)の融資再開に向けて、実業家出身で経済改革の経験があるシャリフ氏への期待は大きい。

 日本政府は電力の安定供給などの分野で協力を深め、経済再建を側面から支援する必要がある。