限定正社員 制度導入への課題はなお多い

 雇用を拡大し、成長分野に人材を振り向ける一助になるだろうか。

 政府の規制改革会議は成長戦略の一環として、「限定正社員」の制度化を答申する方針だ。

 限定正社員は、職務や勤務地、労働時間が限定されている。正社員と同様、福利厚生が受けられ、雇用期間にも定めがない。「ジョブ型正社員」とも言われ、欧米では一般的である。

 正社員より賃金は低いが、非正規社員に比べると、身分は安定していると言える。子育てや介護を抱える人は、自分の希望にあった働き方を選択できる。

 こうした雇用形態を採用している企業は多いが、必ずしも雇用ルールは確立されていない。

 限定正社員を制度化することで期待されるのは、雇用者全体の35%に膨らんだ非正規雇用正規雇用に近づく一歩となることだ。給料が低く、リストラの対象にされやすい非正規雇用の増大は、消費低迷の要因とされている。

 職務が限定されれば、従業員の仕事の専門性が明確になる。人によってはキャリアを積むことができ、転職の際に強みになろう。

 一方、限定正社員制度が定着した場合、企業側にもメリットがある。役割を終えた事業所の閉鎖や職種の廃止に踏み切る際に、配置転換などで雇用が保護される正社員とは違って解雇しやすい。

 不採算部門に余剰人員を抱え込む現状の改善につながる。

 だが、制度化への課題は多い。連合は、限定正社員が解雇規制の緩和という側面で検討されたことを問題視し、「工場や事業所の閉鎖に伴い、企業が勝手に社員を解雇できる」「首切りへの自由化策だ」と反発している。

 企業にとっては、解雇を巡る訴訟リスクの増加も懸念材料だ。

 規制改革会議は、どのような場合に解雇できるか、といったルール作りについて、政府に結論を出すことを求めている。

 安易なリストラを助長し、かえって雇用の不安定化を招くような事態は避けるべきである。

 失業を増やさずに、構造不況業種から成長産業へ、いかに労働力の移動を図るか。流動性の高い労働市場を形成することが、日本経済の再生には欠かせない。

 従業員が解雇された際の再就職を支援するため、政府や企業は就職先のあっせんや職業訓練にも力を入れる必要があろう。

 雇用だけでなく、経済成長や産業の国際競争力など幅広い観点から議論を深めてもらいたい。