李克強首相発言 歴史を無視した言いがかりだ

 日本は、沖縄県尖閣諸島を巡って身勝手な主張を展開する中国の宣伝戦に対する警戒を一段と強める必要がある。

 習近平政権ナンバー2の李克強首相が5月26日、ドイツのポツダムで演説し、尖閣諸島を念頭に、「日本が盗み取った中国の領土は返還されねばならない」との見解を示した。

 尖閣が中国の領土だとする主張は日本として到底受け入れられない。菅官房長官が「あまりにも歴史を無視した発言」と中国を非難したのは当然である。

 李首相は、第2次大戦終結時に日本が受諾したポツダム宣言について、「日本が盗み取った中国東北地方や台湾などの島嶼とうしょを中国に返還すると規定したカイロ宣言の条項を必ず履行すると指摘している」と語った。

 尖閣日清戦争中に日本に奪われたもので、日本がポツダム宣言を受諾した以上、尖閣も台湾の付属島嶼として返還されるべきだというのが中国の論法だ。

 李首相の発言に目新しさはないが、なぜポツダム宣言の地で語ったのか。習政権には、敗戦国の日本が第2次大戦後の国際秩序を乱していると主張することで、尖閣を巡って領有権問題があることを欧州にも訴える狙いがあろう。

 尖閣諸島は、清国に帰属する根拠がないことを踏まえ、日清戦争後の台湾割譲以前に日本が閣議決定沖縄県編入した。台湾に付属する島嶼とする中国側の主張には、歴史的な根拠がない。

 第2次大戦後の日本の領土を法的に確定したサンフランシスコ講和条約尖閣への言及はない。日本が当時承認していた「中華民国」(台湾)は日華平和条約の交渉過程で尖閣を持ち出さなかった。

 そもそもカイロ、ポツダム両宣言は、尖閣に言及していない。戦後の領土確定に最終的な法的効果があるわけでもない。

 日本が編入してから約75年間、台湾も中国も日本の領有に異議を唱えなかった。このことからも李首相の論理矛盾は明白である。

 中国の王毅外相が「常識外れの話をしてはならない」と菅長官に反撃したのも問題だ。常軌を逸しているのは中国の方である。

 李首相の発言は、共産党機関紙「人民日報」が中国には沖縄県の領有権すらあると示唆する論文を掲載したのに続く安倍政権への新たな揺さぶりといえよう。

 日本政府は在外公館を総動員するのは無論、国際会議などあらゆる機会を利用して、日本の立場を積極的に発信すべきである。