尼崎事件検証 「民事不介入」の意識を改めよ
警察による「不作為の連鎖」がなければ、最悪の事態を防ぐことができた。そう思うほかない、ずさんな対応である。
兵庫県尼崎市の連続変死事件で、香川県警は、親族4人が死亡した高松市の一家への対応が不適切だったとする検証結果をまとめた。
事件の主犯で、自殺した角田美代子元被告(当時64歳)らは、2003年から一家宅に居座った。それ以降、一家の男性や親族、知人ら計17人から、香川県警本部と警察5署に、合わせて36回もの通報や相談が寄せられていた。
ところが、それらの情報は警察内部で共有されなかった。それどころか、別個の家族間トラブルと認識されていた。角田元被告らの事情聴取も行わなかった。
一連の不手際について、県警が遺族らに謝罪したのは当然だ。
男性が被害届を提出しようとしたのに、県警が受理しなかったのも問題である。「暴行や傷害の日時や場所が不明なので、立件できない」との理由からだった。
怠慢以外の何ものでもない。警察は、住民の生命、身体に危害が及ぶ恐れを常に考慮し、対応に当たらねばならない。
兵庫県警の対応も看過できない。一家の男性の長女が明石市内から尼崎市内に連れ去られた際、目撃した友人が警察に相談したが、警察は「家族のもめ事」として放置した。長女はその後、角田元被告らに殺害されたという。
両県警の対応の根底にあるのは「民事不介入」の意識だろう。警察には、「私人間の紛争は、当事者同士か裁判所で決着すべきだ」という考えが根強くある。
確かに、民事上のささいな事案に警察が乗り出すのは、人員面などから無理がある。いたずらに警察権力を行使すれば、かえって紛争をこじらせることもあろう。
だが、過去の教訓を忘れてはならない。1999年の埼玉県桶川市のストーカー殺人事件は、警察が「民事不介入」を口実にして、捜査を怠ったために起きた。
この事件を契機に、国家公安委員会が設置した警察刷新会議は、「民事不介入についての誤った認識を払拭する」という緊急提言をまとめたが、最も肝心な警察官の意識改革が進んでいない。
ストーカーだけでなく、家庭内暴力や近隣トラブルなどを巡る事件が増えている。警察への相談件数も、増加傾向にある。
警察全体が民事不介入に対する認識を改め、事件の芽を摘んでいくことが重要だ。