邦人陸送法案 自衛隊の活動拡充を着実に

 様々な緊急事態を想定し、その対応に必要な自衛隊の活動の法的枠組みを整えておくことは危機管理の要諦である。

 政府が、在留邦人らの陸上輸送を可能にする自衛隊法改正案を国会に提出した。

 現行法は、自衛隊による海外での邦人輸送の手段として、航空機や艦船の使用を認めているが、車両は認めていない。

 今年1月のアルジェリアの人質事件では、事件現場と国際空港が約50キロ離れていた。アルジェリア政府は邦人を空港に移送したが、国によっては現地政府の対応が期待できないケースもあろう。

 政府の検証委員会報告書が、自衛隊による陸上輸送を検討するよう提言した。与党の作業部会も、自衛隊法改正を求めている。

 改正案は、車両による在留邦人輸送を自衛隊の任務に追加した。防護対象も、在留邦人だけでなく、早期面会を希望する家族や、同行する企業関係者、外務省職員らにまで拡大した。心強い内容だ。

 在留邦人の安全確保を支援することは政府の責務である。改正案の早期成立を図るべきだ。

 2004年4月には、イラクで外国人拘束事件が相次いだため、イラク南部サマワ陸上自衛隊宿営地を取材した報道関係者を陸自が近郊の空港まで輸送した。輸送の法的根拠がないため、「広報活動の一環」と説明した。

 こうした理屈を無理にひねり出さなければ、自衛隊が任務を果たせない仕組みは是正する必要がある。陸上輸送を正式任務に位置づけることで、陸自が必要な訓練・研究を行える意義も大きい。

 一方で、課題も残っている。

 自衛隊員の武器使用権限は従来通り、正当防衛などに制限されたままだ。自分の身に危険が及ばない限り武器を使えないため、輸送が妨害されても警告射撃ができないなど、活動は制約される。

 無論、外国での活動である以上、自衛隊の活動は相手国の了解が前提となる。武器使用権限を野放図に拡大することはできない。

 だが、近くの住民らに救助を求められても、「駆けつけ警護」ができない現状は問題が多い。

 02年12月には、東ティモールの国連平和維持活動(PKO)に参加中の陸自部隊が、暴動が発生したディリ市内の邦人飲食店経営者に救助を要請され、「休暇中の隊員の安全確保」を名目に邦人17人を宿営地に輸送した例もある。

 今回見送った武器使用権限の拡大についても、政府・与党は本格的に実現を検討すべきだ。