就活期間短縮 「抜け駆け」で骨抜きにするな

 大学生が学業に専念する環境作りが、優秀な人材の育成につながる。就職活動の期間短縮は妥当な措置と言えよう。

 大学生の就活を解禁する時期が、「3年生の12月」から「3年生の3月」へ繰り下げられる。面接などの選考開始も、4か月遅い4年生の8月になる。

 安倍首相が、米倉弘昌経団連会長ら経済3団体の首脳に要請し、経済界も受け入れを表明した。現在の大学2年生の新卒採用から適用される見通しだ。

 就職活動のルールは、経団連が紳士協定の「倫理憲章」で定めている。就活解禁の12月以降、3年生は志望書作成や会社説明会に追われ、欠席も増える。授業に支障を及ぼす現状に、大学などの不満が強いのは当然だろう。

 4年生の春からは面接など選考活動も始まる。海外では4年生の夏まで授業のある大学が多い。就活の出遅れを恐れ、海外留学を見送る学生も少なくない。

 選考開始が8月になれば、大学生は学業に長く集中でき、留学もしやすくなる。国際的な人材を求める企業にもプラスになろう。

 問題は倫理憲章に拘束力も罰則もないことだ。憲章に賛同する企業は、経団連に加盟する約1300社のうち830社にとどまる。外資系をはじめ、憲章に縛られない企業が、解禁前から人材の囲い込みに走る懸念は拭えない。

 かつての就職協定も、こうした「青田買い」で骨抜きになり、廃止された。同じ轍を踏まぬよう、経団連は憲章を周知し、賛同会社を増やす努力が要る。企業も学生の学力低下を嘆くばかりでなく、進んで憲章を守るべきだ。

 国家公務員総合職の試験は4〜6月に実施されている。国が人材を先取りしないよう、日程を見直さなければならない。

 学生は短期決戦で内定を取りにくくならないか不安視している。中小企業は、大企業に人気が集中し、人材獲得が一段と難しくなることを心配している。

 好業績の中小企業が採用を増やそうとしても志望者は少ない。この「ミスマッチ」を解消するため、政府と企業、大学などが連携を強化する必要がある。

 学生にも意識改革を求めたい。インターネットで簡単に志望書を提出できるようになったためか、手当たり次第に大企業に挑むケースが目立つのが気がかりだ。

 有名企業への入社を目指す「就社活動」ではなく、働きたい仕事にこだわる本来の「就職活動」で適職を見つけてほしい。