原発・エネルギー政策―「変わった」自民を見せよ

 「原発ゼロは無責任」と主張する自民党の安倍総裁が、まもなく首相に就任する。

 自民党は連立に向けた政策協議で、「可能な限り速やかにゼロ」とする公明党に配慮し、原発依存度を下げることで合意した。しかし、安倍氏が新増設に含みをもたせるなど、真意は不透明だ。

■先送りは許されぬ

 福島は、今も苦しみの中にある。どこかで再び事故が起きれば日本は立ちゆかない。だから朝日新聞は、将来的に原発をゼロにすべきだと主張してきた。

 すでに、安全性を重視した新たな枠組みとして原子力規制委員会が発足し、複数の原発活断層の存在を確認しつつある。

 「原発推進ありき」で規制を甘くし、電力業界の利益保護を優先させてきた、かつての自民党政治にはもはや戻れない。

 衆院選の大勝を受け、石破幹事長は「(原発政策を時間をかけて検討するという公約が)支持された」という。

 だが、朝日新聞の選挙後の世論調査では、自民党が10年以内に判断するとしていることについて「評価する」は37%、「評価しない」が46%だった。

 原発政策の決定を先送りしていては、代替エネルギーに必要な投資も新規参入も進まない。地域独占に守られた電力システムの改革も待ったなしだ。

 政策決定のあり方では、民主党政権が新たな境地を開いた面がある。生かすべきところは継承すべきだ。

 新政権は、民主党政権が設けたエネルギー・環境会議や国家戦略室を廃し、新たな経済財政政策の司令塔として「日本経済再生本部」を置く。原発政策は経済産業相の諮問機関である総合エネルギー調査会に委ねる雲行きだ。

 しかし、原発事故後、エネルギー政策は単なる経済政策ではなくなった。被害にあった住民や地域の救済、温暖化防止などの環境問題、核不拡散をめぐる安全保障外交との兼ね合いが問われる。

 原発の推進と規制を兼ねてきた経産省資源エネルギー庁への国民の不信は根強い。環境省文部科学省、外務省なども束ね、縦割りを防いで指示や相互調整ができる担当大臣と事務局を設ける必要がある。

■第三者の検証も

 政策の決定過程を透明化し、議論が偏ったり二項対立に陥ったりすることがないよう、随所で専門家や第三者による検証を重ねることも重要だ。

 民主党政権では、電源ごとの発電コストや電力需給の見通しについて、専門家による検証委員会を設け、議論の土台となる客観的なデータを整えた。

 今後は代替エネルギーへの投資や廃炉にかかる費用、立地自治体への支援など「脱原発コスト」の比較検証も必要になってくる。圧倒的に多くのデータをもっている電力会社が情報を恣意(しい)的に操作しないよう、監視する役割も必要だ。

 「討論型世論調査」のように国民が政策決定に具体的に関わる手立てもぜひ継続してもらいたい。複雑な問題を「お任せ」にせず、自ら学び、意見をかわす場をつくることが、最終的には政策への理解や政治への信頼回復へとつながるからだ。

 エネルギーに関するさまざまな議論の場を公開とし、ネット中継などで広く国民に開放することは言うまでもない。

■国の責任の明確化を

 こうした基盤を整えたうえで急ぐべきは民主党が積み残した課題である。

 賠償や除染に対する国の責任の明確化であり、使用済み核燃料の再処理をめぐる問題だ。

 巨額の賠償費用に加え、10兆円以上ともいわれる除染費用を東京電力だけに負わせる今の仕組みは早晩、破綻(はたん)する。

 国有化でようやく緒についた改革機運を維持しつつ、東電処理を根本からやり直すことが急務だ。国策民営で原発を推進してきた責任を明らかにし、どう費用を負担するか、再検討しなければならない。

 東電支援のための原子力損害賠償支援機構法が昨年8月に成立した際、付帯決議が盛り込まれた。同法を1年後、原発事故の賠償を原則的に事業者に負わせる原子力損害賠償法は2年後をめどに見直すとする内容だった。主導したのは、野党だった自公である。

 破綻(はたん)しているのは、核燃料サイクル政策も同様だ。国内で技術を確立できないまま、膨大な国費がつぎこまれている。

 原発を減らしていけば、使用済み核燃料を再利用する必要性も薄れる。早期廃止を決め、限りある財源を別の政策や立地自治体の立て直しに振り替えるのが、現実的な政策だ。

 使用済み燃料を保管する場所の確保や、放射性廃棄物の最終処分地の選定も、国が主体となって仕切り直すしかない。

 3年あまりの野党時代を経て「変わった」自民党を、ぜひ見せてほしい。