政府と日銀―金融緩和は魔法の杖か

 次期政権を担う安倍自民党総裁が、日銀に大胆な金融緩和を迫っている。

 日銀の白川方明総裁との会談で、政府と協定を結び、2%のインフレ目標を設けるよう求めた。日銀も来月には協定を結べるよう検討に入ったという。

 実勢から外れた高すぎるインフレ目標は現実的でないとしてきた日銀にしては、何とも素早い身のこなしである。

 来年3〜4月に白川総裁と2人の副総裁の任期が相次いで切れる。政界では早くも後任人事の話題が熱い。日銀法を改正して、言うことをきかせようとする動きもある。

 日銀には、政府や国会の機嫌を損ねるのは得策でない、という政治判断もあろう。臨機応変さも必要だ。しかし、変わり身の早さだけでは、中央銀行としての信用を失いかねない。

 選挙中から、もっと緩和さえすれば景気は良くなるかのような主張が飛び交った。

 だが、金融緩和は魔法の杖ではない。日銀も、高いインフレ目標を無理に達成しようとすると、さまざまなリスクや副作用を招くと指摘してきた。

 収入が増えない家計が物価高を警戒して節約に走れば、景気はさらに悪くなる。企業に設備投資などの資金需要がない中で大量にお金を流しても、効果は乏しい。緩和が空回りしたまま日銀が国債を買い続ければ、財政不安が高まる――。いずれももっともな目配りである。

 残り任期が少ない白川総裁にとって、金融政策の役割と限界を、政治家と国民に納得させることも大事な使命だ。

 逆に安倍氏には、金融緩和に伴うリスクをどう考えるのか、説明する義務がある。

 さらに、規制や制度の改革などで企業の資金需要を刺激し、金融政策の効果を引き出す責任は政府にあることを、明確にすべきだ。

 政府と日銀との協定も、デフレの複雑さを直視し、金融政策の効果と限界を踏まえ、政府と日銀の適切な役割分担を実現させるためなら意味をもつ。

 政府の怠慢を、緩和の「ノルマ」として日銀にツケをまわす内容は許されない。公共事業の拡大に向けて、日銀に事実上、国債を引き受けさせるような発想は問題外だ。

 一連の経緯からは、日銀法にうたわれた独立性が、実態としては決して高くないことが分かる。放漫財政に目をつける市場から金利急騰のしっぺ返しを受けないために、法改正より、むしろ日銀の政府への従属が強まらないよう注意が必要だ。