世界遺産40年―日本も観光より保護を

 世界遺産は、観光地への「国際的お墨付き」ではない。

 世界遺産条約が、国連教育科学文化機関(ユネスコ)で採択されて40年になる。関心は高まる一方だが、条約の目的は話題にならない。

 本来の目的は、国際協力を通じて遺産を保護することだ。

 条約ができたきっかけの一つは、ナイル川のアスワンハイダム建設で破壊の恐れがあったエジプトのヌビア遺跡を、ユネスコが国際協力を通じて保護したことだった。

 観光の楽しみや経済効果を期待するばかりでなく、遺産の保護に思いを致すべきだ。

 世界遺産とは「顕著な普遍的価値」をもつ建造物や遺跡、自然地域などを、ユネスコの政府間委員会である世界遺産委員会が登録する。現在、962件あり、日本に16件ある。

 その美しさ、珍しさから、世界遺産はテレビなどで盛んに紹介されてきた。

 登録されれば、数多くの観光客が集まり、抜群の経済効果をもたらす。人口減少や高齢化に悩む地方自治体には魅力的なシンボルとなった。

 知床や石見銀山が登録され、文化庁が候補を公募した2006〜07年ごろから、自治体や観光業界の活動は熱を帯びた。私たち新聞も、世界遺産委員会での国内候補の当落を大きく報道した。

 それぞれの地方の事情は理解できるし、世界遺産への登録活動によって、住民が地域の価値を確認することもできる。一般的な関心と経済効果が、寄付などの形で遺産保護につながる面は否定できない。

 だが、発展途上国に目を転じれば、いまも破壊に直面する文化財がある。60カ国の世界遺産関係者が、今月初め京都市に集まった「40周年記念最終会合」で繰り返し強調したのは、国際協力を通じた遺産の保護という条約の原点だった。

 日本にも世界の遺産保護にあたる専門家がいるし、文化遺産国際協力コンソーシアムという連絡組織もある。

 40周年記念最終会合で、興味深い報告があった。

 九州大法学研究院の河野俊行教授は、ブータン文化遺産保護法づくりを手伝っている。

 ブータン世界遺産は存在しない。前提となる国内の法制度もなかった。近年、世界遺産登録への機運が生まれ、国内法を整備することになった。

 だが、観光のためではない。ブータンも開発圧力が強くなった。世界遺産をめざす目的は、文化財の保護だという。