日中韓FTA―政経分離のきっかけに

 日本と中国、韓国が自由貿易協定(FTA)の交渉に入ることを決めた。

 3カ国の首脳が「年内の交渉開始」に向けて努力すると合意したのが今年5月。尖閣諸島竹島の問題で一時は正式決定が危ぶまれたが、カンボジアでの国際会議の場を利用して、3カ国の経済・貿易担当相が一堂に会した。

 中国からは、事前に「中日間の産業はとりわけ密接につながっている」(陳徳銘商務相)との声が出ていた。韓国も「FTA交渉自体を拒む必要はない」との判断に至ったという。

 領土に関する主張は譲らないが、経済への影響は避ける。そんな「政経分離」の姿勢であれば、歓迎する。

 世界の国内総生産(GDP)合計の2割、東アジアでは7割を占める3カ国は、貿易や投資を通じて深く結びついている。

 とりわけ、世界第2位と第3位の経済大国である中国と日本は、切っても切れない関係にある。

 中国の日本からの輸入は、景気減速に暴動の影響も加わって急速に落ち込んだ。日系自動車会社が使う部品なども減っており、生産の停滞が中国の景気の足を引っ張るのは確実だ。日本からの投資も冷え込んでおり、中国の中長期的な成長に影を落としつつある。

 2年前の尖閣沖での漁船衝突事件で、中国はレアアース(希土類)の対日輸出を制限した。その後、日本側が中国以外での資源確保やレアアースを使わない技術開発に努め、中国の関連企業は経営難に陥った。

 こうしたことが「政経分離」への教訓になったのだろう。

 もっとも、尖閣竹島問題での対立は根深く、一朝一夕には解決しない。

 今回の国際会議でも、3カ国の首脳会談が見送られる一方、中韓両国のトップ会談では日本の過去の「軍国主義」や最近の「右傾化」が話題となり、対日批判で一致したという。

 政治と経済の問題は本来、分かちがたい。環太平洋経済連携協定(TPP)をめぐる駆け引きは好例だ。米国主導のTPPに日本が関心を示した後、中国は日中韓FTAに前向きになった。アジア重視を掲げる米国への対抗意識は明らかだ。

 だからといって、政治的な対立を経済に持ち込んでも問題は解決しないし、お互いに困るだけだ。

 経済関係の深まりを「重し」として、突発的な衝突を避けつつ、冷静に議論を重ねていかねばならない。