節電目標見送り それでも電力不足は深刻だ

 政府は今夏、企業や家庭に対し、数値目標を掲げた節電要請を見送る方針を決めた。

 8月が猛暑でも、電力需要ピーク時に、供給余力が全国平均で約6%、最も厳しい関西電力管内も3%を確保できる見通しのためだ。

 昨夏は7電力管内で5〜15%の節電目標を定め、企業や家庭に負担を強いた。電力供給の上積みや節電効果で、数値目標を回避できたことは評価できる。無理のない節電で夏を乗り切りたい。

 とはいえ、稼働する原子力発電所は関電の大飯原発2基だけで、電力供給は綱渡りである。政府と電力各社は、大規模な停電などを起こさないよう、安定供給に万全を期さなければならない。

 大半の原発が止まっていても電力供給に問題はない、などと考えるのは楽観的すぎる。

 老朽化で運転を長期休止していた火力発電所も動員し、原発停止で不足した電力をかろうじて補っているのが実情だからだ。

 必要な発電量を維持しようと、火力発電所の検査を減らすなどの無理を重ね、故障やトラブルのリスクは一段と高まっている。

 発電所の緊急停止が相次ぐ事態ともなれば、電力需給は一気に逼迫(ひっぱく)する恐れがある。

 特に懸念されるのが関電管内である。頼みの綱の大飯原発が停止すると、「余力3%」から一転して約12%の電力不足に陥る。他電力から電気の融通を受けても、余力0・6%しか確保できない。大停電の危機と紙一重といえる。

 電力不足が日本経済に与えている打撃も極めて大きい。

 原発停止を補うために必要な火力発電の追加燃料費は、12年度の3・1兆円から13年度は3・8兆円に増えるという。液化天然ガス(LNG)などの輸入価格が、円安で高騰したのが主因だ。

 火力発電への依存が長引けば、資源国へ巨額の国富流出が続き、貿易赤字の拡大に歯止めがかからなくなる。電力料金の追加値上げも避けられず、企業の生産コストは上昇する。工場が海外移転する産業空洞化も加速しよう。

 電力不足は、安倍首相の経済政策「アベノミクス」の障害ともなる。安全を確認した原発を着実に再稼働し、経済成長に必要な電力を確保することが大切である。

 原子力規制委員会は、7月に策定する新たな規制基準で遅滞なく原発の安全性を審査すべきだ。

 政府も、再稼働へ立地自治体の理解を得られるよう、説明に全力を挙げてもらいたい。