危険運転厳罰化 重大事故の撲滅につなげたい

 飲酒や無免許など悪質運転による重大事故が後を絶たない。厳罰化を事故抑止につなげたい。

 政府は無謀運転の罰則を強化する法案を国会に提出した。危険運転致死傷罪などを刑法から抜き出し、独立した法律にするものだ。

 法案の柱は、“準危険運転罪”と言える規定を新設した点だ。

 危険運転罪は「正常な運転が困難な状態」が適用要件だ。制御できないほどのスピードや飲酒・薬物の影響による酩酊状態で運転し、事故を起こした当事者が対象となる。最高刑は懲役20年だ。

 だが、事故当時の速度や酔いの程度を確定するのは難しい。このため、捜査当局は、自動車運転過失致死傷罪で立件せざるを得ないケースが少なくない。最高刑は懲役7年にとどまる。

 危険運転罪と自動車運転過失致死傷罪の刑罰の差は大きすぎると言えよう。厳罰を求める遺族感情に配慮し、最高刑が懲役15年の規定を設けるのは理解できる。

 問題なのは、新たな規定の適用要件があいまいなことだ。運転手が「正常な運転に支障が生じる恐れがある状態」であれば、罪に問えるが、「支障が生じる恐れ」の適用範囲が明確ではない。

 政府は国会審議で、適用基準を分かりやすく示す必要がある。

 法案は、病気の影響で起きた事故も危険運転の対象とした。てんかんなど意識障害を招く疾病を想定している。栃木県鹿沼市で一昨年、クレーン車の運転手がてんかんの発作を起こし、児童6人を死亡させた事故を受けたものだ。

 病気への差別を招くとして、患者団体は法案に強く反発している。政府は、事故抑止という趣旨を患者側に丁寧に説明することが大切だ。患者側にも、発作などの危険がある場合、運転を控える自律性が求められよう。

 法案には、無免許運転に対し、罰をより重くする加重罪も盛り込まれた。京都府亀岡市で1年前、無免許運転の車が小学生ら10人を死傷させた事故がきっかけだ。

 この事故では、逮捕された少年が無免許運転を繰り返していたことから、「運転技術は未熟でなかった」として、捜査当局は危険運転罪を適用しなかった。

 今回の法案でも、無免許運転危険運転罪に組み込むことは見送られた。無免許だけでは、「正常な運転が困難」との適用要件を満たせないためだという。

 釈然としない思いを抱く人は多いだろう。無謀な無免許運転の扱いは、今後の検討課題である。