社会保障政策 全世代で応分の負担が必要だ

 ◆活力回復へ少子化に歯止めを◆

 急速な少子高齢化で、年金、医療、介護など社会保障制度の維持に黄信号がともっている。

 将来への不安から、消費を控えて貯蓄に回そうとする心理が、景気低迷にもつながっている。安倍内閣は、社会保障制度に対する信頼の回復を急がねばならない。

 最優先すべきは、消費税率の引き上げを柱とする社会保障と税の一体改革を着実に進めることだ。消費増税分は、基礎年金や医療などの財源に充てられる。制度を維持していくための大きな一歩になるだろう。

 ◆改革は長期的な視点で◆

 無論、これだけでは不十分だ。将来を見据えた長期的な改革として、少子化対策が重要である。

 これまでの日本の社会保障は、年金額などで高齢者に手厚い反面、少子化対策が貧弱だった。

 社会保障と税の一体改革によって、消費増税分13兆5000億円のうち、7000億円が子育て支援策の財源となる。それでも、フランスやスウェーデンなど、少子化の克服に成功した国々に比べると相当見劣りする。

 日本は、1人の女性が産む子供の数を示す合計特殊出生率が1・39で、先進国では最低のレベルだ。出生率の低下で、人口は今後50年間に3割以上も減り、100年後には3分の1の規模に縮むと予測されている。

 少子化に歯止めがかからなければ、労働力人口が減少し、現役世代の社会保障費負担は重くなる。経済成長にもマイナスで、社会の活力をそぐことにもなる。

 出産を機に退職を余儀なくされる女性が多い現状を改善したい。失職への不安が、出産をためらう一因だ。保育サービスの拡充や育児休業中の所得保障の強化など、安心して働き続けられる環境を整えることが急務だろう。

 安倍首相は記者会見で、女性が活躍し、子供を産み育てやすい国を作っていくことが政権の責務だと強調した。3年3か月で少子化相が計10人も入れ替わった民主党政権を反面教師とし、強力に少子化対策を進めてもらいたい。

 少子化と並び、非正規雇用の増大も社会保障を危うくしている。パート、契約社員などの非正規労働者は1800万人を超え、被用者の35%に達した。

 ◆非正規雇用対策が課題◆

 非正規労働者については、年金、医療、雇用など社会保険を適用していない企業が多い。社会保険料の徴収対象でない労働者の増加は、保険料収入で成り立つ社会保障制度の根幹を揺るがす。

 失業や病気が生活困窮に直結し、将来は無年金・低年金になる恐れも強い。

 非正規労働者は、リストラの対象にもなりやすい。経済的な理由で結婚が難しく、30歳代男性の既婚者の割合は正社員の半分ほどにとどまる。それが少子化を加速させる悪循環を招いている。

 非正規労働者に対する厚生年金など社会保険の適用拡大や、正社員との賃金格差の是正は大きな課題である。

 田村厚生労働相が記者会見で、経済再生のため「雇用についてもしっかり対応したい」と述べたのは妥当だ。非正規労働者の処遇改善にも積極的に取り組んでもらいたい。

 社会保障制度を持続可能にするには、若者から高齢者まで、世代を問わず、能力に応じて負担することも求められる。特に見直しが必要なのは、年金税制である。

 公的年金は税額控除が大きく、年金生活者の納税額は、同じ収入の勤労所得者に比べて大幅に少ない。年金課税を強化し、現役世代との格差を是正すべきだ。

 問題はそれだけではない。70〜74歳の医療費の窓口負担は、法定では2割のところ、1割に抑えられている。その結果、前後の年代に比べ、収入に占める負担額の割合が小さい。本来の2割負担に引き上げることが求められる。

 ◆給付の抑制も不可避◆

 介護サービスは現在、比較的症状が軽い要支援者でも、自己負担率は重度の要介護者と同じ1割だ。今後は負担率の引き上げも検討課題になる。

 給付の抑制も避けられない。

 公的年金には、賃金や物価の変動率より年金の伸び率を低く抑える仕組みが2004年に導入されたが、一度も発動されていない。早期に実施する必要がある。

 ただ、年金生活者の所得格差も大きく、生活費を基礎年金だけに頼る低年金の高齢者も少なくない。消費増税の際、生活必需品の軽減税率を導入するなど、低所得者対策が欠かせない。