日本郵政―このまま上場は心配だ

 日本郵政のトップ人事が波紋を広げている。

 斎藤次郎社長が任期半ばで退任し、坂篤郎副社長が昇格した。旧大蔵省(現財務省)の元「大物次官」から、同じ役所の後輩への交代である。

 元民主党代表の小沢一郎氏に近い斎藤氏は、自民党との関係がよくない。第1次安倍内閣官房副長官補を務めた坂氏にスイッチして、政権交代を無難に乗り切り、2015年秋に予定される株式上場の準備を急ぐ算段のようだ。

 しかし、新政権発足前の「政治の空白」を突いたかのような交代劇に、さっそく自民党幹部から批判があがっている。

 日本郵政は政府が100%の株式を持つ。しかも、上場という民営化の本番に向けた大切な人事であり、7兆円と見こまれている上場益は復興財源に回される。

 政権交代後に、政府とも協議し、民間人も含めた候補から人選するのが筋だ。元大蔵官僚によるたらい回しでは、民営化の趣旨にも沿わない。

 懸念される点は、ほかにもある。子会社のゆうちょ銀行とかんぽ生命の新規業務をどう認めていくかという問題だ。

 上場に向け収益性を高める必要はあるが、民間とくに中小金融機関との公正な競争をはかる必要がある。

 今年4月の郵政民営化法の改正で、お目付け役の民営化委員会も一新された結果、新規業務への参入が弾力的に認められるようになった。学資保険の新商品に続き、住宅ローンなど融資業務への条件付き参入も容認され、あとは金融庁銀行法などに基づく認可を出すだけだ。

 だが、かんぽ生命への検査で10万件に及ぶ保険金不払いが見つかるなど、日本郵政の管理体制に問題が浮上している。

 管理レベルが低いまま新規業務を拡大し、株式上場へとなだれ込むことは、のちのち大きな問題を招きかねない。

 金融庁は、日本郵政の金融機関としての実力を厳正に見極めてほしい。

 株式上場による財源確保を優先して、収益力の強化に配慮しすぎれば、政府による業績テコ入れと疑われる。郵政がいくら「暗黙の政府保証」はないと否定しても、民間の懸念は深まるだろう。

 その点で、子会社2社の株式を完全売却する期限が、民営化法改正で消えたままなのも問題だ。政府の影響力が温存されることは不信を招く。2社の上場スケジュールも早く明らかにすべきだ。