自民大勝、安倍政権へ―地に足のついた政治を

 またしても、小選挙区制のすさまじいまでの破壊力である。

 総選挙は、自民、公明両党が参院で否決された法案を再可決できる320議席を確保する大勝となった。自民党の安倍総裁を首相に、3年ぶりに政権に返り咲く。

 かたや民主党は衝撃的な大敗を喫した。退陣する野田首相は党代表の辞任も表明した。

 勝者と敗者の議席差はあまりに大きい。だが、過去2回の総選挙のような熱気はない。

 最大の理由は、3年前、政権交代を後押しした民意が民主党を拒み、行き場を失ったことだろう。「第三極」も幅広い民意の受け皿たりえなかった。

 その結果、地域に基盤をもつ自民党が、小選挙区制の特性もあって相対的に押し上げられた。それが実態ではないか。

 投票率は大きく下がった。世論調査での自民党の支持率も2割ほど。安倍氏は昨夜「自民党に100%信頼が戻ってきたわけではない」と語った。

 安倍氏はそのことを忘れず、大勝におごらぬ謙虚な姿勢で政権運営にあたってほしい。

■「特効薬」などない

 いま、何よりも求められるのは政治の安定である。

 不毛な政争を繰り返した結果、わずか6年で6人の首相が辞める。まさに異常事態だ。

 その間、経済も外交も有効な手を打てず、内外で「日本の衰退」が言われる。

 第1院、第1党の党首が腰を据えて国政のかじを取る。そんな当たり前の政治を、今度こそ実現しなければならない。

 安倍氏の責任は重大だ。前回、体調を崩したせいとはいえ、結果として1年ごとの首相交代の幕をひらいた。同じ轍(てつ)をふんではならない。

 大事なのは、現実的で柔軟な政策の選択である。内政にせよ、外交にせよ、問題を一気に解決してくれる「特効薬」などあるはずがない。

 自民党は公約の柱に経済再生を掲げた。国民もデフレ不況からの脱出を願っている。

 日本銀行にお金をどんどん刷らせ、政府は公共事業を膨らませる。自民党はそう主張するが、懸念がある。行き過ぎたインフレや財政悪化を招く「副作用」はないのか。

 尖閣諸島をめぐって、中国の理不尽な挑発行為が続く。北朝鮮による事実上のミサイル発射も、日本のナショナリズムを刺激した。日本の安全をどう守るのか、国民が関心をもつのは当然のことだ。

■現実的な政策判断を

 自民党の公約には強腰の項目が並ぶ。憲法を改正し自衛隊国防軍に。集団的自衛権の行使を可能に。尖閣諸島に公務員を常駐させる。政府主催の「竹島の日」の式典を催す。

 だが、それが本当に日本の安全につながるのか。

 戦前の反省をふまえた、戦後日本の歩みを転換する。そうした見方が近隣国に広がれば、国益は損なわれよう。米国からも日本の「右傾化」への懸念が出ている折でもある。

 課題は山積している。

 社会保障と税の一体改革を前に進め、財政を再建する。震災復興や自然エネルギーの開発・普及を急ぎ、経済成長の道筋を描く。日米関係や、こじれた近隣外交を立て直す。

 利害が錯綜(さくそう)する複雑な問題を調整し、ひとつひとつ答えを出す。いまの世代のみならず、将来世代にも責任をもつ。安倍氏に期待するのは、地に足のついた実行力にほかならない。

 前回の安倍政権では靖国神社参拝を控え、村山談話河野談話を踏襲して、日中関係を立て直した。そうした現実的な知恵と判断こそが重要である。

 民主党をはじめ野党との信頼関係をどう築くかも、新政権の安定には欠かせない。

 現状では、少なくとも来夏の参院選までは衆参の「ねじれ」が続く。安倍氏は自公連立を軸に、政策ごとに連携相手を探る構えだが、とりわけ参院で第1党の民主党の存在は重い。

■「3党合意」を生かす

 まず民自公で合意した一体改革、さらに衆院選挙制度改革をしっかり実行することだ。

 民自公3党の間では、赤字国債発行法案を政争の具にしない合意もできた。この流れを逆もどりさせず、政党の枠を超え、協力すべきは協力する。そんな政治文化をつくりたい。

 原発政策もしかり。総選挙では多くの政党が「脱原発」を主張した。自民党の公約は原発の将来像の判断を先送りしているが、安倍氏は「できるだけ原発に依存しない社会をつくる」と語る。少なくともその方向では、すべての政党が協力できるはずではないか。

 もちろん、新政権が行き過ぎたりしないよう、野党がブレーキをかけるのは当然のことだ。与野党の不毛な対立を防ぐためにも、連立を組む公明党には政権の歯止め役を期待する。

 民主党にも言っておきたい。

 惨敗したとはいえ、これで政権交代が可能な政治をつくることの意義が損なわれたわけではない。自民党に失政があれば、いつでも交代できる「政権準備党」として、みずからを鍛え直す機会としてほしい。