電気自動車 不毛な規格争いは混乱を招く

 電気自動車(EV)の充電規格を巡り、日本と欧米メーカーの対立が決定的になった。
 日本方式の国際標準化を狙った日本勢には痛手だ。EVの本格的な普及を目指し、戦略の見直しを迫られよう。
 EVは走行中に二酸化炭素(CO2)を出さない究極のエコカーとして期待される。ただ、1回のフル充電で走行できる距離が約200キロ・メートルと短いのが難点だ。
 搭載するリチウムイオン電池の性能と、急速に充電できる技術を各社が競っている。
 「チャデモ方式」と言われるEVの急速充電器を実用化したのはEVを量産している日産自動車三菱自動車など日本の業界だ。欧米にも採用を呼びかけた。
 しかし、米国の業界団体は、米ゼネラル・モーターズ(GM)や独フォルクスワーゲン(VW)などが推進する「コンボ方式」という別の規格の採用を決めた。
 双方で使われる充電コネクタは異なり、互換性がない。
 コンボはまだ机上プランに過ぎず、実用化は2013年以降とされる。にもかかわらず、米業界が日本の提案を退けたのは、EV市場で日本に主導権を握られることを警戒したからだろう。
 将来、欧米市場などでコンボが標準化されると、先行していた日本勢が逆に孤立化する。
 自動車業界が最優先すべきは、ユーザーの利便性向上である。二つの規格が併存すれば、混乱を招き、EVの販売にもブレーキがかかりかねない。
 エコカー競争では、ガソリンと電気モーターで走るハイブリッド車が人気を集め、EVの普及は遅れている。それだけに世界の業界が基盤技術の規格で対立することは好ましくない。
 日本メーカーは、チャデモの利用拡大を狙うとともに、二つの規格に互換性をもたせる技術開発も主導すべきではないか。
 独自規格を作ろうとする動きが出ている世界最大の市場である中国を取り込むことも重要だ。
 EV普及に弾みをつけるためには、急速充電できるスタンドなどを国内外で急増させるべきだ。
 これまでも日本は、アナログハイビジョン放送や携帯電話などの技術開発で先行したのに、世界標準化できなかった。こうした失敗を繰り返してはなるまい。
 政府が知的財産推進計画で国際標準化を重視する方針を掲げているのは妥当だ。産業競争力を強化するには、標準化を獲得する方策を官民で検討する必要がある。