自分を表現することを恐れている

 自分自身を表現することをわれわれは恐れている。そして、われわれは自らの喜びや悲しみを表現することを゛はしたない”という形で抑えていることがたいへん多い。
 したがって、自分自身の感情を素直にそのまま表現することに対する社会的抑制が強い。たとえば、どんなかなしい時でも泣かない人間を゛よくできた人間”というふうにして表現する。゛よくできている”とは耐え難きを耐えることである。しかし、親しい人間を失った時、自分の悲しみをこらえることの方が、かえっておかしいのではなかろうか。泣いていいかどうかは、その時の状況判断である。どうもわれわれは生き方が不自然なのである。
 たしかに、悲しい時にも泣かずに冷静に事を処理できるのが理想である。しかし、無理をしてそうすることは、かえってよくないのではなかろうか。