現代人が忘れた感情

サッカーを愛する何よりの理由は、「憎しみから出発した競技」だということである。蹴る、しかも足で蹴るという行為には、迸るような情念が感じられる。それは、マイペースの市民、幸福なホームドラマの主人公たちが忘れている感情である。もう何年もの間、石ころ一つ蹴ったことのない円満なサラリーマンは、あの頭蓋骨大のボールを蹴りながら、相手のゴールへ駈けてゆく戦士たちを観て、失った何かを取り戻すべきではないだろうか。サッカーには、現代人が忘れた感情への想いがある。閃く靴先には、男らしさへの復権が賭けられている。