新「津波警報」 犠牲を減らす一歩にしたい

 気象庁が、新たな津波警報の運用を始めた。

 東日本大震災の反省を踏まえたものだ。

 津波による犠牲を減らす一歩にしたい。

 新たな警報では、津波の規模を大まかに、「巨大」「高い」に分けた。マグニチュード(M)8を超える巨大地震が起きた時は、発生3分後の第1報で、「巨大」と警告を発する。

 「巨大」警報が出た場合、津波は最低で10メートル前後に達する恐れがあるという。その際、大切なのは即座に逃げることだ。新たな警報が迅速な避難につながるよう気象庁は周知に努めねばならない。

 従来の津波警報では、第1報の段階でも、地震の観測データから津波の高さを算出し、具体的な数値を発表していた。

 東日本大震災では、発生直後に岩手、福島両県で「3メートル」の津波を予測し発表した。ところが、実際は10メートル超の場所が多かった。

 津波の規模の過小予測で避難が遅れた、との指摘がある。

 一刻を争う場面では、的確な情報を分かりやすく伝えることを最優先にすべきだ。地震直後の観測データが乏しい段階で、無理に数値予測を出す必要はない。

 具体的な津波の高さの予測については、観測データに基づき、順次、発表される。その情報の発し方も工夫が求められる。

 津波は2波3波と襲来し、大震災では、後続の津波で甚大な被害が出た地域もあったからだ。

 津波警報が発令された際、NHKは、すでに避難を促す新たな呼びかけを始めている。三陸沖を震源とする昨年12月の地震の際に、「大震災を思い出してください」などと繰り返した。

 被災者からは、恐怖の記憶がよみがえり、「つらい」などの声が寄せられた。呼びかけ方には今後、配慮が必要だろう。

 沿岸地域では、警報の有無にかかわらず、大地震の時は自ら判断して逃げることも大切だ。停電や防災無線の故障などで情報が行き届かない場合もある。

 心配なのは、大震災で大津波に備える必要性を痛感したはずなのに、市町村の避難体制の整備が遅れていることだ。総務省消防庁の昨秋の調査では、大震災後に津波避難計画を見直した全国の沿岸部の市町村は、まだ1割前後だ。

 大震災では、避難先の施設が次々と波にのまれた。道路は車で渋滞し、避難が滞った。

 いかに警報を工夫しても、それだけでは命を守れない。政府や自治体は対応を急ぐべきだ。