国防軍構想―自衛隊でなぜ悪い

 自民党政権公約で、憲法を改正して自衛隊を「国防軍」に位置づけると明記した。

 安倍総裁は「外に向かって軍隊、内に向かって自衛隊。こんな詭弁(きべん)はやめようというのが自民党だ」という。

 日本の安全保障政策の根幹に関わる問題であり、強い危惧を感じざるを得ない。

 国防軍構想は自民党の4月の憲法改正案に盛り込まれた。

 自民党作成のQ&Aによると、改正案では、(1)集団的自衛権行使に関する憲法上の制約をはずす(2)国際平和活動における武力行使を可能にする(3)軍法会議である「軍事審判所」も置く、などとしている。

 単なる名称の変更にとどまらず、「普通の軍隊」に近づけたいということだろう。

 だが、自衛隊憲法9条の平和主義に基づき、専守防衛に徹し、海外での武力行使を禁じるなど、制約された実力組織として内外に広く認知されている。

 この制約を取り払えば、国際社会、とりわけ周辺諸国に「軍の復活」と受けとめられ、不信感を抱かせかねない。

 さらに、現在の自衛隊のままで、なぜ期待される役割が果たせないのかも疑問だ。

 有事対応や抑止力としての機能はもとより、災害救助などを通じて自衛隊は国民の信頼を得ている。東日本大震災での献身的な活動は記憶に新しい。

 国連の平和維持活動(PKO)にも積極的に参加し、その仕事ぶりは各国から高く評価されている。

 それを、なぜ変える必要があるのか。

 折しも、尖閣諸島竹島をめぐり、中国や韓国との関係が悪化した。

 国防軍をめぐる論争は、タカ派でならす日本維新の会の石原代表らと強い姿勢を競い、「右」の支持層を奪い合っているようにも見える。しかし、内向きの安保論議は、中韓との関係改善には逆行する。

 ここで議論を喚起して、安倍氏主導で憲法改正に道を開きたい思惑もあるのだろう。

 もっとも、憲法改正の発議には衆参両院の3分の2以上の賛成が必要だ。

 国防軍構想には、民主党のみならず、総選挙後に自民党と連立を組む可能性のある公明党も強く反発している。

 それらを考えると、果たして現実味のある話といえるのか。

 領土をめぐる対立にしろ、沖縄の基地問題にしろ、地に足をつけ、着実に取り組むべきだ。これこそ政治の第一の責任ではないか。